「ロシア十字」の独特な形には何の意味がある?

ロシア十字、またはロシヤ十字八端十字とも言われる形の十字架があります。ロシア語では Русский православный крест(「ロシアの『正教の』十字架」というわけですね)と言います。

★注意点:当記事の内容はロシア十字の説明であって、正教についての詳しい教義を述べるものではありませんので、その点は御理解ください☆
正教の考え方について詳しく知りたい方は以下のサイトなどをご参照ください。とても参考になると思います。

よろぴくお願いしまぁす!☆
(外国語だと分かにくいという方は日本正教会のホームページやこのページの末尾にある参考文献などをご参照ください。)

2020年の4月19日・日曜日は、キリスト教の正教での復活大祭(聖大パスハ【Пасха】、イースター)です。(※毎年大体この時期ですが、日付の詳細は一定では無くて毎年変わるのだそうです。また、今年はこういう状態なので、各国で信徒の教会への参祷は禁止・自粛のようです・・。)
それに多少ちなんで、今回はロシア十字について、ロシア語の勉強も交えながら述べてみたいと思います~。尚、当サイト管理人は、正教徒です。

★ 今回の内容はキリスト教に関連する内容を含みます。
★ ロシア語学習のためにロシア語訳を引用したりしてますが、新約聖書の原本はギリシャ語です。

Христос воскресе ! Воистину воскресе!

ハリストス復活!実に復活! Christ is risen! Truly He is risen ! 【復活祭の時に正教徒同士で交わされる挨拶。前半が呼びかけで、後半が受け答えです。】

今年のモスクワでの復活祭の祈祷の様子。なかなか始まりませんが、動画の14:00頃から祈祷が始まります。教会内の様子を見ると、ロシアでも十字架の形状として「ロシア十字」だけでなく他の形の十字架も普通に使われてる事がうかがえます。同じ十字架である事には変わりないわけです。

ロシア十字の 形状とルカによる福音書

十字架はロシア語で крест と言います。

まず、ロシア十字とはどんなものなのか見てみましょう!どーん!

教会の屋根についている十字架が「ロシア十字」です。

ロシア十字は「八端十字」とも呼ばれます。
いわゆる「よく見かける十字架」が2本の線、つまり「4つの端」があるのに対し、ロシヤ十字には線が4つ、つまり「8つの端」があるためです。(個人的には、「八端」という呼び名はかえって分かりにくい名称であると感じますが・・)。

ロシア十字の下側で「斜めになってる線」がありますね。
じつはこれがポイントです!後述しますが、この部分には新約聖書のキリストの磔刑の箇所、特に「ルカによる福音書」による記述に対する意味が込められています。

ロシア十字には他にもいくつか形状がありますが、このページではルカ伝と関わりが深いタイプのものについて説明いたします。

十字の下側の棒(「足台」の部分)が斜めになっていないものもあります。
足台が三日月形になっているものは、(昔の)イスラム圏の勢力に対する「勝利」の意味を込めていると言われます。

足台と罪状書き

さて、では通常の十字架に付け加わっている線は、何を意味するのでしょう。

加えられている2本の線は、じつは下の斜めの線は足台、上の短い線は罪状書き【「ユダヤ人の王」】を表しています。

この罪状書きというのは新約聖書に記述があります。ロシア語訳を引用すると、次のようなものです。

И была над Ним надпись, написанная словами греческими, римскими и еврейскими: Сей есть Царь Иудейский.

http://www.russianbible.net/Luk-23.html より引用
【新約聖書ルカ伝23章38行目のロシア語訳 罪状書きに関する記述】

罪状書きに関する同様の記述はルカ以外の3福音書・マトフェイ(マタイ)27.37、マルコ15.26、イオアン(ヨハネ)19.20などにもあります。

少しロシア語の単語なども整理します!

  • Царь:ツァーリ(帝政ロシアの皇帝)、王
    一般的な「王様」の事は король と言います。
  • Иудейский:ユダヤ人の
  • написанный:書かれている → на + писанный【писать:書く】 слово:言葉、単語
  • греческими:ギリシャの、ギリシャ語の 【грек:ギリシャ】
  • римлянин:ローマの 【латинский:ラテンの、ラテン語の】
  • еврейский:ユダヤの【иврит:ヘブライの】
    ※3ヶ国語で書かれていたという事は、日本語の新共同訳ではルカ伝には書かれていません(ヨハネのほうにはある。)写本の違い等に起因するものなのか、別の要因なのは、よく分かりません。
  • надпись:記述、記載、刻銘
  • сей:この【 этот と意味は同じ】

★ その他ロシア語文法事項:

では、足台についてはどうでしょう?

イエスから見た右側と左側:右盗と左盗

ロシア十字の下側についている「斜めの線」は足台を表します。

この足台に関しては、じつは一般的には象徴的な意味として使われています。
その意味では、当時の十字架の物質的な形状がどうであったかという事ではなくて、聖書の中の一節を象徴的に表現するために使われているというわけです。

ロシア十字の足台の部分は「磔刑にされたイエスから見て『右側』(十字を見る人からは左側)」が上側になる斜め線で描かれています。 その点が、聖書の記述に関係するのです。
【※教会の屋根などに掲げられているロシア十字の場合、もちろん「裏側」から見ると右と左が逆になってしまいます!】

ロシア十字。キリストが正面を向いてると考えて、キリストから見て斜めの「足台」の部分の右側が上、左側が下になっています。裏側から見てしまうと当然左右逆になってしまうので注意。その場合はキリストを後ろから見てる形になるわけです。

足台の部分が「斜めになっている」ロシア十字については、その事自体に明確な意味が込められてるのです。

これはじつは、イエスから見て右側につけられた盗賊が自らの罪を悔い改めて天の国に迎え入れられ、逆にイエスから見て左側の盗賊は最後の最後まで悔い改める事なく地獄に落ちた(であろう)事が、意味としてこめられています。【参考文献:オーソドックスとカトリック―どのように違うのか歴史と多様性を知る

これは、新約聖書の「ルカによる福音書」の内容になります。該当箇所のロシア語訳の引用は次のようなものです。

Один из повешенных злодеев злословил Его и говорил: если Ты Христос, спаси Себя и нас.
Другой же, напротив, унимал его и говорил: или ты не боишься Бога, когда и сам осужден на то же?
и мы [осуждены] справедливо, потому что достойное по делам нашим приняли, а Он ничего худого не сделал.
И сказал Иисусу: помяни меня, Господи, когда приидешь в Царствие Твое!
И сказал ему Иисус: истинно говорю тебе, ныне же будешь со Мною в раю.

http://www.russianbible.net/Luk-23.html より引用【新約聖書ルカ伝23章39-43行目のロシア語訳 イエスから見て左側の盗賊はイエスを罵ったが右側の盗賊はそれをたしなめた場面。】
  • подвешенный:吊るされた【ここでは十字架につけられた】
    злодей:悪人、犯罪者 злословить:罵る 【зло- 「悪い」】
  • напротив:それに対して、~とは反対に【副詞、前置詞】
  • унимать:静かにさせる、なだめる осуждать:批判する、責める
  • царство:王国
  • сказать → говорить「言う」の『完了体』 помнить:覚えている
  • истинно:確かに、本当に 【該当箇所の日本語の新共同訳は「はっきり」】
  • ныне:今、現在 рай:楽園

★ その他文法事項など:

聖書の文章自体は平易な事もあって、
ロシア語の格の使い方についても比較的見やすいと思います。

この「右盗」なる人物は、正教(およびカトリック)では聖人として扱われています。(聖ディスマスという名で呼ばれる事もあります。新約聖書の中ではその名前は出てきません。)

★同じ新約聖書内の記述でも、じつはマトフェイ(マタイ)伝やマルコ伝では、2人の盗賊は両方ともイエスを罵ったと記述されています。
この相違点についてはきちんとした(聖職者・神学者による)神学的な解釈によって説明がなされるべきだと思うので、詳細な言及はここでは避けます。何らかの意味はあるのだとは思います。

ロシアの地で正教が受け入れられたのは10世紀に入ってからで、ロシア十字が使われ始めたのはそれよりもさらに後の時代になってからだと言われます。ですからロシア十字は、キリスト教の歴史の中では、比較的新しい時代にできたものとも言えます。

他方で、ロシア十字が「意味するもの」はそれよりもずっと昔からあったものという事になります。十字架の形状だけに注目するとロシア特有のものですが、意味するものは決して特異なものではなくて正教(キリスト教)全体で共有しているものというわけです。
こういった「意味」をきちんと知ると、全く同じものを見ていても、見え方が変わりますね!

★ 冒頭でも触れましたが当記事は、「ロシア十字」が意味する事についてのお話であって、「正教会の信仰とはどういうものか」という事を論じているのではない点には、ご注意ください。
(その事はこのページ内で語り尽くせるものではないですし、一信徒が軽々しく論じるべきでない事もありますので。聖書の引用は、参考文献等の記述に基づいて最低限の部分だけを引用しています。)
正教について詳しく知りたい方は、冒頭に紹介しましたサイトなどをご参照くださいませ☆

では今回はこれで終わります。ご覧いただきありがとうございます!

「ハリストス復活!」「実に復活!」

参考文献・参考資料

※参考図書のリンクは外部リンクです!

■ 右盗に関して:ウィキペディア Penitent thief Благоразумный разбойник

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